最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)1180号 判決 1967年8月24日
上告人
市川利正
代理人
小野実
被上告人
島崎竜馬
代理人
西原要人
主文
原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人小野実の上告理由第一点について。
金額に争のある債権につき、全額に対する弁済を供託原因として供託した金額が、債権者の主張する額に足らない場合であつても、債権者が供託書の交付を受けてその供託金を受領したときは、受領の際別段の留保の意思表示をなした等特別の事情のない限り、その債権の全額に対する弁済供託の効力を認めたものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三三年(オ)第一一九号、同年一二月一八日第一小法廷判決、民集第一二巻第一六号三三二三頁)。
ところで、本件において、上告人は昭和三七年七月二日本訴提起以来被上告人の弁済供託金額を受領するまで、一貫して本訴で、利息は一カ月三分と主張(被上告人は日歩一・三六九銭と主張)していたことは本件記録上明らかである。このような場合には、上告人主張の金額中供託金額を超える部分については、当然留保の意思表示がなされていると見るべきであり、右判決にいう特別の事情ある場合にあたるというべきである。しかるに、これと異なつた見解に立ち、右特別の事情がないとした原審の判断には法律の解釈をあやまつた違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである。論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
されば、上告理由中その他の点に関する判断を省略し、事件についてさらに審理させるため、民訴法四〇七条一項により原判決を破棄して本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)